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爽快倶楽部編集部


平成17年8月26日
郵政民営化選挙の是非を問う - 小泉政治を検証する -
・小泉内閣の予算編成を検証する
9月の衆院選を前にして、小泉自民党内閣は。郵政民営化反対ならば改革抵抗派、真の改革派は小泉自民党だと声を枯らして叫んでいる。選挙の争点として、何が何でも郵政民営化を第一のものとしたいという目論見であろうが、彼の派手な物言い、パフォーマンスによって一見、成功したかに見える。郵政民営化による郵政事業の継承問題を考える前に、そもそも小泉内閣は何をしてきたのか、どういう内閣であったのか、下の財務省統計で見てみよう。

国債及び
借入金(億)
財政融資資金
特別会計国債(億)
歴代総理大臣 在任期間
1996 平成8年9月末 3,356,210 - 橋本龍太郎 平成8.1.11-平成10.7.30
1997 平成9年9月末 3,626,766 - 橋本龍太郎
1998 平成10年9月末 4,011,589 - 橋本龍太郎
1999 平成11年9月末 4,656,371 - 小渕恵三 平成10.7.30−平成12.04.05
2000 平成12年9月末 5,110,449 - 森喜朗 平成12.04.05-平成13.4.26
2001 平成13年9月末 5,655,553 210558 森喜朗
2002 平成14年9月末 6,315,261 581749 小泉純一郎 平成13.4.26-
2003 平成15年9月末 6,556,840 845368 小泉純一郎
2004 平成16年9月末 7,309,853 1026948 小泉純一郎
2005 平成17年3月末 7,815,517 1,215,532 小泉純一郎
【国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(財務省)】

これによると、小泉内閣が発足して以来、「国債及び借入金」はこの4年間に215兆9964億円増加している。その内、財政融資資金特別会計国債は100兆4974億円増加している。小泉内閣は構造改革と財政健全化を旗印に多くの国民の支持を得てきた。だが、この数字は当初の旗印とは余りにもかけ離れた実態を示している。この数字による限りでは、政治による財政再建への主導性が欠落している。官邸主導政治と言われてきたが、「国債及び借入金」総額の20パーセント近くを「財政融資資金特別会計国債」が占めるという事実は官僚主導に他ならないといえる。

・小泉内閣のいう小さな政府は実現可能なのか
今、小泉内閣は小さな政府を作るために郵政民営化が必要だという。確かに、過去5年間に官僚によって使われてきた財政融資資金特別会計国債が民営化によって欠落するならば、年間20兆円以上の官僚主導予算が消失する。だが、それによって何が起きるのか。役人はこれだけの金を公社、公団、特殊法人に使って来た。その中には天下り先だけの不必要な特殊法人は多数あるだろう。だが、そのすべてが消失すれば必要とされるであろう行政サービスも止まってしまう。財政融資資金特別会計国債が恒久的に必要だと言っている訳ではない。その急激な消失ではなく、それを資金源としている官僚機構の不必要な組織構造改革がまず第一にあるべきだと思うのである。小泉内閣はそれをやってきたのか。小泉内閣はこういうかもしれない。それが出来ないからこそ、財政融資資金特別会計国債資金を消失させるのだと。だが、上記のような予算編成を行ってきた小泉内閣にとってそれが可能であるのか、見極めねばならない。郵政が民営化され、財政融資資金特別会計国債がなくなれば、官僚はあらたな財源としてより多くの国債発行と増税を望むだろう。道路公団民営化を例にとれば、道路公団の官製談合など、重箱の隅の問題であり、その民営化にともない、それまでの道路建設が国の税金で賄われることになったことである。民営化により、従来以上に道路行政をめぐる政官財の結びつきが強くなっただけである。道路公団民営化で一人手を叩いたのは国土交通省の役人であり、自民党道路族であった。道路公団民営化委員会の委員のほとんどが辞任してしまった事態がそれを証明している。衆院、参院で郵政民営化法案に反対したのは基本的には郵政族と呼ばれる議員であるが、賛成したのはそれ以外の建設族、道路族、農林族、厚生族である。彼らの賛成を得て郵政民営化が実現したとき、この本丸に対していかなる改革が可能なのか。

小泉自民党は、民営化により公務員の削減が実現するという。だが、郵政事業には税はまったく使われておらず、財政支出とはまったく関係がない。確かに公務員の見かけ上の数だけは減る、しかし、本丸であるそれ以外の省庁の役人の数やその傘下の特殊法人の数が減るわけではない。

・郵政三事業の行方は
次に郵政民営化による郵政自体の問題点を考えてみよう。郵政三事業のうち、郵便事業におけるユニバーサル・サービスの質について、この事業が他の預金、保険事業の収益の充填によって成り立っている現状からみれば、その保持には、あらたな税財源の投入が必要となろう。民間の宅配業者並みのサービスであれば、地域によって料金格差が生まれるであろう。預金、保険事業の出先機関である全国の郵便局は統廃合が余儀なくされるであろう。僻地の山村、漁村、離島に銀行や保険会社の支店がないこと見れば、自明の理であろう。これは、民営化による資本の論理のなせる技であり、不採算事業を統廃合するのは、民営会社の経営者にとって当然なことである。

ところで、民営化によってもたらされる一番大きな問題は、実は別なところにある。それは、民営化された時の巨大な郵政資金の流れである。一つは、国債や地方債をどう会計処理するのか、また、郵政公社は主に資金の運用先として公的機関に貸し出してきたが、他の銀行、信用金庫、保険会社のように民間事業に対して資金運用ができるのか。国民から集めた巨大な資金を持ったまま立ち往生するか、不慣れな投資によって強大な不良債権を生み出しかねない。郵政民営化委員会は、その資金の使い方、運用について、ただ「民間経済が活性化する」としか言っていない。民間投資には大きなリスクがともなう。この問題をどう解決するのか。民営化によって、日本最大の銀行、保険会社が生まれる。そのことによって何が起きるのかを誰も語らない。ここに郵政民営化の危うさが存在する。

郵政はその事業内容において、そう遠くない将来において何等かの見直し、改革が必要となろう。だが、今回の民営化法案はあまりに唐突であり、危険である。何故、郵政公社発足の際に自ら決めた、2007年度の見直しを待たなかったのか、なぜこれほどまでに急ぐのか、その理由が判然としない。

・選択肢はあるのか
最近、財務省は国、地方自治体の債務合計が統計外も含め1000兆円を越えたと発表した。これは、戦後直後において発生したハイパーインフレの予兆を感じさせる恐るべき数字である。すぐ目の前に、かって日本が経験したことがない未曾有のインフレが迫っていることを心すべき時である。今、我等は冷静に、郵政民営化の是非以前に小泉政治の是非について考えねばならない時である。小泉政治以外にも選択枝はあってよいはずである。自民党にも人はいるであろう。野党にも人はいるであろう。湯水のごとく金を使ってきた政官財の中心をなす官僚主導型政治、省庁・特殊法人利権に対して真の構造改革、財政改革をなしうるリーダーは誰であるのか、自民党にも、野党にも期待したい。争点は財政健全化のための官僚主導型事業の徹底した見直しであり、年金事業再構築、景気浮揚政策、脱石油エネルギー政策の推進、地方への実質的税源移譲、北朝鮮拉致問題、国防・外交である。メディアは、おもしろおかしく郵政反対派に立てた泡沫候補を報道するだけで、真の論点を伝えようとしない。今、仮に、小泉自民党がこの選挙で勝利しても、参議院で再度否決される可能性はある。また、その場合、衆議院で三分の二以上の賛成が必要となる。その実現性は極めて乏しいと言わざるを得ない。小泉政治を信じ郵政民営化へ向けて支持を与えるのか、新たなリーダーを選ぶのか、それは我々の一票にかかっている。

参考サイト:

自由民主党
民主党
公明党
日本共産党
社会民主党
国民新党
新党日本
郵政民営化法案 
選挙情報専門サイト「ELECTION」
PHP総合研究所
新しい日本をつくる国民会議-21世紀臨調
リアルタイム財政赤字カウンタ
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