TOP昭和歌謡曲 − あの時、あの歌


爽快倶楽部編集部


第十六回 川の流れのように (昭和64)(1989)
作詞:秋元康 作曲:見岳章 歌:美空ひばり

歴史は余りに巧妙だ。この年、裕仁天皇の崩御により昭和という時代が終わった。戦後世界の構造を形作った米国とソ連がその冷戦の終結を宣言する。日本の戦後に大輪の花として咲いた美空ひばりが死去する。昭和という時代が提起したあらゆる事柄に、それぞれの立場の人がそれぞれの立場で終結を宣言した。なんという符合だろうか。

昭和の最高の歌手、美空ひばりは自らの死期を知るかのように歌う。

「知らず知らず 歩いてきた
細く長い この道
振り返れば 遥か遠く
故郷(ふるさと)が見える
でこぼこ道や 曲がりくねった道
地図さえない それもまた人生
ああ 川の流れのように ゆるやかに
いくつも 時代は過ぎて
ああ 川の流れのように とめどなく
空が黄昏(たそがれ)に 染まるだけ

生きることは 旅すること
終わりのない この道
愛する人 そばに連れて
夢 探しながら
雨に降られて ぬかるんだ道でも
いつかは また 晴れる日が来るから
ああ 川の流れのように おだやかに
この身を まかせていたい
ああ 川の流れのように 移り行く
季節 雪どけを待ちながら

ああ 川の流れのように おだやかに
この身を まかせていたい
ああ 川の流れのように いつまでも
青いせせらぎを 聞きながら」(*)

「振り返れば 遥か遠く 故郷が見える」

昭和を生きた者にとっては昭和という時代そのものが故郷なのだ。故郷の故郷たる所以は生きた所ではなく生きた時間なのだ。大正14年の治安維持法成立を受けて、昭和は戦争への道をひた走る。昭和3年、張作霖爆殺事件、特別高等警察(特高)設置 、6年、満州事変、7年、5.15事件勃発、満州国建国、8年、国際連盟脱退、11年、2.26事件勃発、12年、蘆溝橋事件、日中戦争勃発、13年、国民総動員法公布 、15年、日独伊3国同盟締結 、16年、対米開戦、都市大空襲、20年、東京大空襲、広島・長崎原爆投下、無条件降伏、占領軍統治、そして戦後の復興。昭和とは、実に多くの事を含んで来た時代だった。

この歌が発表された当時、時代はまさにバブル経済の頂点期であり、その風潮に酔うあまり、この歌の真の意味を知ることはなかったのかもしれない。だが、この歌は単なる抒情歌ではない。戦後を生きて来た人々の心に、その歌によって時に慰めとなり、時に勇気を与えた美空ひばりは、戦後を全身で背負った者の責任であるかのかのように昭和を生きたすべての人に代わって昭和を回顧する。この歌は、恐らくは美空ひばりでしか、その意味を伝えられまいと思う。激動の時代の中で人々は、決して希望を失わなかった。歴史の激流の中でいかに翻弄されようとも人々は強く生き続けた。昭和という時代の終焉を、戦後44年目にして訪れた初めて実感する平和を、自らの歌謡人生の総決算として彼女は歌ったのではないか、そう思う。

この年について、もう一つ言っておかねばならないことがある。それは、昭和の終焉と期を同じくするように、歌謡曲がその終焉を迎えたということである。この年以降、歌謡曲は大衆の支持を大きく失って行った。それはまるで時代が、歌謡曲を必要としなくなったかのようである。現在歌われる歌謡曲のほとんどは一部を除いてこの年以前の歌ばかりである。歌謡曲は死んでしまったのか。人々はもう歌謡曲を望まなくなったのか。歌謡曲に携わる者達はよく考えてみるといい。聞き継がれ、歌い継がれた歌とは一体どんな歌であったのか、辛い時、苦しい時、楽しい時、ふと人々の口からこぼれ落ちた歌とはどんな歌であったのか。それを生み出せない現代は不幸と言える。

「 ああ 川の流れのように おだやかに この身を まかせていたい
ああ 川の流れのように いつまでも 青いせせらぎを 聞きながら」

美空ひばり、戦後最大の歌手、彼女の残した歌は膨大であり、その多くが今も聞き継がれる。そして、昭和とともに没した美空ひばり、彼女は今、彼岸の地で青いせせらぎを聞いているのだろうか。

(*)「川の流れのように」の歌詞より転載


[美空ひばりの代表的作品]

悲しき口笛(1949年)
東京キッド(1950年)
越後獅子の唄(1950年)
私は街の子(1950年)
あの丘越えて(1951年)
お祭りマンボ(1952年)
リンゴ追分(1952年)
ひばりのマドロスさん(1954年)
伊豆の踊り子(1954年)
波止場だよ お父つぁん(1956年)
港町十三番地(1957年)
車屋さん(1958年)
哀愁波止場(1960年)
ひばりの佐渡情話(1962年)
哀愁出船(1963年)
柔(1964年)
悲しい酒(1966年)
真赤な太陽(1967年)
芸道一代(1967年)
雑草の歌(1976年)
おまえに惚れた(1980年)
裏町酒場(1982年)
愛燦燦(1986年)
みだれ髪(1987年)
川の流れのように(1989年)

[この年流行った歌]
坂本冬美(男の情話)
風の盆恋歌(石川さゆり)
Diamonds(プリンセス・プリンセス)
淋しい熱帯魚(Wink) 
世界でいちばん熱い夏(プリンセス・プリンセス)
とんぼ(長渕剛)

主な出来事 − (昭和64年)(1989)
1-7 昭和天皇崩御、87歳。皇太子明仁即位。
1-7 午後の閣議で元号を「平成」と決定し、午後2時36分に発表
1-15 官庁、隔週土曜閉庁。病院、税関等を除く国の行政機関が、毎月第2、第4土曜日を休日となる。
1-20 第41代米国大統領にブッシュ就任。
2-4 金融機関が完全週休2日制となる。
2-6 前年8月から行方不明だった入間市の幼稚園児宅に箱にはいった人骨等が置かれる。(宮崎勤幼児殺害事件の始まり)
2-24 大喪の礼。
3-2 佐賀県吉野ヶ里遺跡で、銅剣・ガラス製管玉などが発掘される。
3-11 幼稚園児宅に人骨が置かれた箱に関する事件に関して新聞社宛に女性名の犯行声明が届く。
4-1 日本初の民間衛星放送・JSB(日本衛星放送、通称WOWOW)、本放送開始。
4-1 消費税がスタート、税率は3%。
4-11 川崎市の竹やぶで1億円余の札束発見され、話題となる。
4-25 竹下首相、辞意を表明。
5-22 東京地検、リクルート事件で藤波孝夫元官房長官、公明党の池田克也代議士を収賄容疑で起訴。
6-3 中国で第2次天安門事件が起こる。数千人が虐殺されたと報道される。
6-3 宇野内閣発足。
6-24 美空ひばり、間質性肺炎による呼吸不全のため死去。52歳。
7-12 小説「悪魔の詩」日本語訳者の筑波大助教授が筑波大学の研究室近くで殺害される。
7-12 鬼平犯科帳 (フジテレビ)放送始まる。
7-23 第15回参議院議員選挙で与野党逆転。
7-24 宇野首相、参院選惨敗と女性スキャンダルで退陣表明。
8-9 海部内閣発足。
8-10 幼稚園児宅に人骨が置かれた箱に関する事件に関連して八王子で強制わいせつ罪容疑で宮崎勤を逮捕。
8-11 宮崎勤、野本綾子ちゃん殺しを自供。
8-25 天皇の次男礼宮様と学習院大学大学院生、川嶋紀子様の婚約発表。
9-22 横綱千代の富士が史上最多の965勝を達成。
9-27 横浜ベイブリッジ開通。全長860m。
10-2 筑紫哲也のニュース23 (TBS)放送開始。
11-13 島根医大で初の生体肝移植手術。
11-15 横浜市の坂本堤弁護士と妻、長男の3人が所在不明となっていることが判明、警察が捜査を始める。オウム真理教とのかかわりが問題となる。
11-22 日本労働組合総連合(連合)が発足する。
11-9 ベルリンの壁崩壊。
12-2 ブッシュ・ゴルバチョフ会談がマルタで始まる。共同記者会見で冷戦の時代の終結を宣言。
12-22 ルーマニアのチャウシェスク独裁政権崩壊。
12-27 19歳の羽生善治が新竜王となり、将棋界初の10代タイトル保持者となる。
12-29 日経平均株価が最高値38915円87銭、バブル経済の絶頂となる。


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