TOP昭和歌謡曲 − あの時、あの歌


爽快倶楽部編集部


第十五回 なごり雪 (昭和50年)(1975)
作詞:伊勢 正三 作曲:伊勢 正三 歌:イルカ

この年、永きに渡ったベトナム戦争が終了する。陥落したサイゴンの南ベトナム大統領官邸に解放戦線の旗が翻ったテレビ映像を憶えておられる方は多いであろう。国内では3億円事件の時効が成立し事件が再び話題となる。5月に一連の企業爆破事件を起こした容疑で東アジア反日武装戦線のメンバー8人が逮捕される。また、8月には日本赤軍がクアラルンプールのアメリカ、スウェーデン両大使館を占拠し、大使館員を人質にして収監中の赤軍派など幹部7人の釈放を要求し、政府は超法規措置として5人をクアラルンプールへ移送した。巷では、犬神家の一族、八墓村などの推理小説がブームとなり多くの若者に読まれる。
 時代は変わりつつあった。この年に流行った歌を見ると、港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ、年下の男の子、シクラメンのかほり、時の過ぎゆくままに、俺たちの旅、およげ!たいやきくん、木綿のハンカチーフ、心のこり、北の宿からなど社会的背景と強く持つ歌が少ない。人々は政治の季節に飽き疲れ果て、心は外から内へ、全体から個へ向かい始める。
時代の代弁者であった阿久悠は「時の過ぎゆくままに」で「あなたはすっかり 疲れてしまい 生きてることさえ いやだと泣いた」と書き、「体の傷なら なおせるけれど 心の痛手は 癒せはしない」と書いた。

こうした時代思潮の中で、現代においても歌い継がれている名曲が生まれる。「なごり雪」である。伊勢正三は、阿久悠が外側から時代を見たのに対し、時代の中でこの曲を書いた。

汽車を待つ君の横で
ぼくは時計を気にしてる
季節外れの雪が降ってる
「東京で見る雪はこれが最後ね」と
さみしそうに君がつぶやく
なごり雪も降る時を知り
ふざけ過ぎた季節のあとで
今 春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった

動き始めた汽車の窓に
顔をつけて
君は何か言おうとしている
君のくちびるが「さようなら」と動くことが
こわくて下を向いてた
時が行けば 幼い君も
大人になると 気付かないまま
今 春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった

君が去ったホームに残り
落ちてはとける 雪を見ていた
今 春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった

去年よりずっときれいになった
去年よりずっときれいになった(*)

すべてが個人的体験である。おそらくふるさとから出てきた男女が、それはともに学生であるかもしれない。3月頃であろう、女がふるさとへ帰ることになる。男はそれを駅まで送って行く。汽車に乗り込むまでの間、僅かな会話を交わす。男はそのとき初めて女に大人になった美しさを感じる。男はこれが永遠の別れになることを知っている。だが、残って欲しいとは云わない。ただ見送り、ホームに一人残りホームに落ちる雪を見ている。

この年、もう一つ注目すべき歌がある。中村雅俊の「俺たちの旅」である。若者3人組の生活を描いたテレビドラマの主題歌だが、この中で繰り返し

背中の夢に 浮かぶ小舟に
あなたが今でも手をふるようだ

と歌われる。
意味は明確にはわからないが、挫折した過去と漠たる未来の混在のようである。

また、この年に放送され人気を博したテレビドラマ「前略おふくろさん」は下町を舞台とした青年板前の物語である。時代の若者たちは、ここでも外から内に回帰している。時代のダイナミズムが南ベトナム陥落とともに終焉し、社会は沈静化し始める。拠って立つ何かを失った時、人は内に向かうのかもしれない。おそらく、この年以降、日本の社会は現在に至るまで沈静化したままである。その意味で、あまりにこの個人的な体験を歌った「なごり雪」という歌の持つ意味は重い。時代から生まれた歌の重さでいえば、この重さは1998年のSMAPによる「夜空ノムコウ」に匹敵する。

余談であるが、また、私の個人的体験で恐縮だが、
君が去ったホームに残り
落ちてはとける 雪を見ていた
と歌われる時、何故か心に込み上げるものがある。が、「君」が誰であり、「落ちてはとける 雪」が何であるのかは知らない。

(*)「なごり雪」の歌詞より転載

[この年流行った歌]
港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(ダウンタウン・ブギウギ・バンド)
年下の男の子(キャンディーズ)(2月発売)
シクラメンのかほり(布施明)
我が良き友よ(かまやつひろし)
いちご白書をもう一度(バンバン)
時の過ぎゆくままに(沢田研二)
俺たちの旅(中村雅俊)
およげ!たいやきくん(子門真人
木綿のハンカチーフ(大田裕美)
リリー・マルレーン(加藤登紀子)
心のこり(細川たかし)
北の宿から(都はるみ)
無縁坂(内藤やす子)

主な出来事 − (昭和50年)(1975)
1-1 長野県大月町の青木湖でスキーヤー送迎バスが転落し死者24人。
1-16 歌舞伎役者・坂東三津五郎がフグ中毒で死亡
1-19 警視庁、中核派、革マル派の内ゲバに非常事態宣言。
2-4 警視庁が暴力団稲川会、山口組を手入れ。601人を逮捕する。
2-28 東京、青山の間組本社、大宮工場が同時爆破される。重軽傷5人。
3-10 山陽新幹線、岡山〜博多間が開業。
4-5 蒋介石没。
4-13 ザ・ピーナツ引退。姉伊藤エミが沢田研二と結婚。
4-30 ベトナム解放戦線がサイゴン大統官邸に突入。南ベトナム消滅し、ベトナム戦争が終了。
5-7 英エリザベス女王来日。
5-16 日本女子登山隊の田部井淳子登攀隊長が女性として始めてエベレスト登頂に成功。
5-25 全国自然保護大会で南アルプススーパー林道建設中止を決議。
6-3 佐藤栄作没。
7-17 皇太子、美智子妃が沖縄を訪問、ひめゆりの塔の前で火炎びんを投げられる。
7-19 沖縄海洋博覧会開催(〜1976-1-18)
8-7 日本科学工業の東京、江東区、江戸川区で25年間にわたり六価クロム鉱滓投棄が発覚。
8-15 三木首相が私人として靖国神社に参拝。
8-29 全国の電話加入者数が3,000万を突破する。
9-21 天皇、米「ニューズウィーク」誌に戦争開始は閣議決定に従い、終戦は自分で決定したと会見。
9-29 信濃川河川問題で地元の9団体が田中前首相を詐欺未遂で最高検察庁に告発。
9-30 天皇訪米。
10-1 国勢調査で農家戸数が500万戸を割る。
10-5 テレビドラマ「俺たちの旅」日本テレビで放送開始。
10-17 テレビドラマ「前略おふくろ様」日本テレビで放送開始。
11-22 ソ連の金星9号、軟着陸に成功。
11-26 公労協がスト権スト実施、国鉄全線ストップする。
12-2 テレビバラエティ「プロポーズ大作戦」朝日放送で放送開始。
12-20 東京高裁、第2次教科書訴訟で検定は一貫性を欠き違法と判決。
12-21 本四架橋、大三島橋の起工式。


TOP昭和歌謡曲 − あの時、あの歌


  Copyright:(C) 2004 Sokai-Club.net. All Rights Reserved.